木の葉の戸惑い
紅葉の季節になると、八年間単身赴任していたつくば市の街路樹を思い出す。どの道路
にも、南北方向にカエデ、東西方向にイチョウの木が整然と並んで、一斉に真紅と黄金の
派手な装いに替え、道行く人たちを堪能させてくれる。
アパートから会社へのマイカー通勤の途上でも、運転席からこの装いを楽しめたが、私
はわざわざ車を迂回して、欲張って眺めていた。
装いが色鮮かな年には、横浜の自宅から妻を呼んで、総延長が四十キロメートルもある
極彩色のトンネルをくぐる、ファンタスチックなドライブを楽しんだ。これらの紅葉を全
部眺めるには、車でも一時間近くはかかった。その間、妻は何度も歓声をあげていた。
紅葉の色の起因をものの本で調べてみると、葉と枝の間の導管が詰まってとり残された
デンプンと、元々葉の細胞に内在するアントシアニジンという色素が結合して、赤色色素
が合成されるためという。イチョウの葉の細胞にはこのアントシアニジンが無く、葉の緑
を担っているクロロフィルが分解されて、元々あるカテロイドという黄色色素の色が目立
つからだという。
いずれにしても、ロマンチックな紅葉も葉一枚一枚にとっては、一種の老化現象なので
ある。
寒暖差によって、年ごとに紅葉の装いは微妙な変化を強いられるが、時期が来ればいず
れ舞い落ちる運命なら、冬の寒さを素直に受け入れて、生涯で一番美しい装いをこらした
いと、木の葉はみんな思っているにちがいない。だから、最近の異常気象には、少なから
ず戸惑っているはずだ。
良く見ると、葉を落とした街路樹の枝先には、可愛らしい冬芽達が、くる春をしっかり
待ち構えていた。寒暖には無頓着な様子にみえる。
平成十五年十一月記
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